H26「労働やまがた10月号」今月のひと

県立職業能力開発施設卒業生
西村鉄工株式会社
今野 広康 さん

 県では、4つの県立職業能力開発施設(産業技術短期大学校山形校・庄内校、山形職業能力開発専門校、庄内職業能力開発センター)を設置し、日々、学生たちが就職に向けてものづくりの技術を学んでいます。
 平成23年度に庄内職業能力開発センターの金属技術科を卒業された今野広康さんは、現在西村鉄工株式会社に勤務されています。日々仕事をするうえで意識されていることや学生時代のお話などを伺いました。
【お仕事内容について】

お仕事内容について教えてください。

  我が社では、鉄骨及び建築金物・鋼構造物・機械機器・設計・製作・施工に至るまで、主に鉄鋼、鉄に関連した仕事をしています。仕事内容は、施工図、原寸、ケガキ、切断、穴あけ、溶接、組立、建方(たてかた)まで、現場で物件が建つまで鉄に関することは全て行っています。
 私は、働いて3年目になりますが、主に溶接をしながら、原寸やケガキも先輩方から教えていただいて少しずつやっています。先輩方からも溶接はよく頼まれますが、腕前は自分ではまだ人並だと思っているので、これから技術を磨いていきたいと思っています。

【工場2階の原寸場全面に描かれている原寸】
【ケガキ】

原寸・・・建物に必要な鉄板などの材料を、実物と同じ寸法で描くこと。
※ケガキ(罫書き)・・・鋼材に、切断や穴あけのための印をつけること。

学生時代は資格をたくさん取られていたようですが、何か意識していたことはありますか。

  まず、「手に職をつける」ということを一番に考えていました。自分が決めた会社や仕事に、自分の資格がどれだけ有効に働くかを考え、進んで資格を取りましたし、常に作業工程を考えて、次の仕事や工程を効率良くできるように全体の流れを考えて取り組んでいました。
 仕事でも、どうすれば、どの段取りでやればスピーディーに作業ができるか常に考えています。

常に「どうしたらいいか」を考えていらっしゃるんですね。 社会人3年目ということですが、そろそろ仕事の楽しさや難しさ、厳しさなどを感じていらっしゃるのではありませんか。

  楽しさというより、自分が手掛けた現場に立った時に「これは私たちが建てたんだ」と一番の喜びを感じます。みんなで協力し合って建てた時の達成感は大きいです。鉄骨は建物として出来上がると壁で見えなくなりますが、構造は全て鉄骨が基になっているので誇らしく思います。
 仕事内容で厳しいと思ったことはありません。先輩からも、最初は何でも優しく教えていただきました。間違っていればもちろん厳しく指導されますが、先輩から言われたことを踏まえて、「次はどう工夫すればもっと早く、より良いものができるか」など自分で考え、工夫しながらやっています。
 厳しさを強いて言うなら、夏は暑く冬は寒いという環境でしょうか。暑い時は体調管理、熱中症に注意しなければなりません。社長や会長からも「身体が資本」、まず自分の身体を大事にするように言われています。水分補給と適度な休憩を取り、自分で体調を見ながら作業しています。寒い時に現場に出る時は、防寒をしっかりします。また現場では高いときには20メートルぐらいの場所での作業になりますし、雪が降ると鉄骨は滑るので注意が必要です。

夏暑く冬寒い環境であり、また危険を伴うお仕事ですが、続けられるというのはなぜでしょうか。

  「自分が作っているんだ」という誇りが一番大きいですが、一方で会社に貢献したいという気持ちも常に持っています。最初に選んだ企業ですし、簡単に辞めるわけにはいかないと思っています。

なぜ西村鉄工株式会社を選ばれたのですか。

  企業見学に行った時に、自分の技術を活かすことができるという印象を受け、この会社に就職したいと思いました。作業員一人ひとりの個性と技能がとても高く、自分もこの企業で学生の時以上に技能を磨いて活かしたいというのが一番大きかったです。他の会社は考えませんでした。

【今野さんと西村鉄工株式会社 代表取締役社長 西村 徹さん】
一年の中で、特に忙しい時期などはありますか。

  お盆前や仕事納めの12月末に一番仕事が集中します。「お盆前に、年をまたぐ前に」というお客様の要望が多いです。

一日のスケジュールを教えてください。

  8時から作業に入りますが、みんな早めに出勤して、朝礼、体操をして、KY(危険予知)ミーティングを行い、1日の仕事の注意事項や改善点を見つけて共有し合っています。一歩間違えれば危険な作業になるので、リスクアセスメントのステップとしてKYミーティングは毎日行っています。
 それらが済むと、物件の原寸を描く人、段取りをする人、ケガキをして切断する人など、それぞれが自分の作業に移ります。納期が近い場合や忙しい場合は、9時頃まで残業することもありますよ。また、工場内の作業だけでなく、現場での組立作業もあります。

現場の組立作業もされているということは、今野さんは一通りの作業は出来るということですね。

  出来ますが、まだまだです。全て経験がものを言います。慣れというか、実際に自分の手で作業して、初めて得られものです。

◆ 工場には、たくさんの機械や工具、鋼材が並んでいます。
◆ 工具や機械は、業界用語のほか、同じものでも企業によって呼び方が違うそうです。

【天井クレーン】
【穴あけ加工機】
【ケガキ作業】
【半自動溶接機】
【アングルカッター(シャーリング)】
必要な寸法に鉄板(短いもの)を切断する機械。
【バンドソー(切断機)】
H形鋼やコラムなどの鋼材を切断する機械。
組立では何人かで作業されると思いますが、何か意識していることはありますか。

  会社全体でチームワークを意識しています。朝礼の際に、「今日一日安全作業を心がける、技術と品質の向上を心がける、コストダウンを心がける、和やかな職場であるように心がける」の4つの「職場の誓い」をみんなで唱和して気持ちを一つにしています。何事もチームワークが大切だと思います。

学生時代と今では、責任の重さが違うと思いますが、どのように感じられていますか。

  資格を取る時の練習であれば失敗は許されますが、仕事において失敗は許されません。お客様の要望にそれぞれ合わせた臨機応変な対応も必要ですし、プレッシャーは大きいです。
 もちろん、仕事を始めた頃は切断ミスや寸法ミスもありましたが、今は2度確認するというように改善しています。常日頃から、会社でも「ヒヤリハット」の事例があった場合、それを次に活かすために紙に書いて提出し、改善点を見つけて共有しています。
 また使用する機械や工具、自分の動作についても「ヒヤリハット」事案やミスのないように始業前点検を徹底しています。

※ ヒヤリハット ・・・ 危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこと。

【庄内職業能力開発センター(以下、センター)の学生時代について】

入学したきっかけを教えてください。

  この学校では必ず資格を取ることができるので選びました。当時、不況だったということもあり、まず資格を持とう、自分の力になるものは全て覚えようと思ったのがきっかけです。

センターでは色んな勉強をされたと思いますが、なぜ溶接を選ばれたのでしょうか。

  私は器用な方ではありませんでしたが、子どものころから手を動かすことが好きで、家にあった溶接の機械で溶接作業をしたりしていたので、溶接が自分に合うのではないかと思ったからです。

学生生活や学校の印象を教えてください。

  私の学んでいた金属技術科は、同じ学生ではありますが社会人経験者など色んな人がいて、最初は少し戸惑いましたが、定員が20名という少人数で良い雰囲気でした。最初のオリエンテーションで、年齢は関係なく同じ学校に入った同級生ですから、一年間頑張ろうと話し合いました。社会人経験者の方からは、会社の環境や、様々な年齢層の方たちとどう接していけばいいかなどアドバイスをもらいました。何事も会話やコミュニケーションが大事ですね。物怖じせず積極的に大きな声で話すという姿勢が大切です。仕事でもそうですが、大きい声を出さないと伝わらないものもありますので。

学習環境についてお聞きします。設備的にはどうでしたか。

  設備は充実していると思います。機械で言うと、アーク溶接機、半自動溶接機、レーザー切断機がありますし、車を覆って塗装ができる大きな機械など一通り全部揃っています。
 11月までに全体で基本を学び、12月頃から溶接や塗装などそれぞれの分野で、より専門的に学びました。先生からは、「次の資格を取るために、こういう溶接をするといいよ」など様々なアドバイスをいただきました。

入学していつ頃進路を選択するのですか。

  私が決めた時期は、企業見学を終えた11月頃です。企業見学でこの会社を訪問した際に「ここで働きたい、ここでは溶接を絶対使う」と思い、溶接を専門的に学ぶことにしました。元々学校では、卒業すればアーク溶接の資格を取得できますが、それにプラスして、企業に活かせる資格が欲しいと思い、半自動溶接の資格も一緒に取りました。学校で学んだ技術は、全て今の仕事に活かされています。

【溶接作業中の今野さん】
保護面を装着すると光以外見えないので、最初に溶接個所を覚えて光を頼りに作業します。
【溶接した柱】
3つの鋼材(コラム、H形鋼)を溶接している
【U形に溶接したパイプ】
会社の中で、今野さんと同年代の方はいらっしゃいますか。

  同い年が1人、1つ下が1人います。1つ下は同じ庄内職業能力開発センターの後輩です。毎年、我が社には学校からの見学者が来るので、ツアーアドバイザーも務めました。

見学の際には学生の方からたくさん質問があると思いますが、今野さんご自身が見学に行った時はどうでしたか。

  開先加工機の使い方や、「この会社では、この工程ではどういう風に組みあがるんですか」など、疑問に思ったことは積極的に聞きました。

【開先加工機】
 材料の先端を溶接するために斜めに削る機械
【作業場】
職場でも積極的に自分の意見をおっしゃっているんですか。

 相手の考えている事と別のことを私が考えている時は、その都度意見のすり合わせを行い、どちらが良いのか話し合いをします。
 ホウレンソウ(報告、連絡、相談)もまめに行います。これもチームワークにあたりますが、私の場合、まず材料ができたら先輩に確認してもらい、分からないことがあったらその都度、連絡・報告するという流れです。1つのミスが周りに迷惑を掛けるので、こまめに確認します。

これからセンターに入ろうと考えている人に、どのような事を伝えたいですか。

  「目標を作ること」そして、「目標に向かって進んで技能を磨くこと」です。就職に関しては、資格のない人より持っている方が断然有利なので、大変でも積極的に学び、資格を取って欲しいと思います。また、自分から進んでコミュニケーションを取って欲しいと思います。会社に入ってもそうですが、やはりコミュニケーション、話し合いは大事です。

【インタビュー中の今野さん】
【これからについて】

今後、取得予定の資格はありますか。

  私は現在、学生時代に取った資格も含め、半自動溶接、アーク溶接、玉掛、天井クレーンの4つの基本級の資格を持っていますが、それぞれ専門級の資格に挑戦したいと思っています。まずは溶接の専門級である横向の資格を取りたいです。

お仕事をしながら資格を取っていかれるということですが、資格の練習はいつされているのですか。

 仕事が終わった後や休み時間を利用して、試験の2週間、1週間前から集中して練習を始めます。先輩にアドバイスをもらいながら取り組んでいます。最初は自分で取り組み、失敗しても、それを改善していくことが大切だと思います。

最後に、今野さんの今後の目標を聞かせてください。

  日々、私自身の技術は向上していると思いますが、先輩たちと比べると、まだまだ覚えていかなければならないことがたくさんあると感じています。技能向上はもちろん、今は後輩もいますし、自分が上に立つという責任を重く受け止め、これからもっと頼られる人材になりたいと思います。

 
2014年10月1日