「労働やまがた10月号」今月のひと

【福祉の仕事シリーズ】
社会福祉法人 偕寿会
特別養護老人ホーム 蓬仙園
施設長 島崎みつ子さん

 社会福祉法人偕寿会特別養護老人ホーム蓬仙園(以下、「蓬仙園」という。)では、介護職員の離職率が大変低く、多くの方が長く勤務しています。そのような蓬仙園の施設長として、職員の方のために働きやすい環境を整えつつ人材育成を行い、よりよい介護を提供するため働かれている島崎さんにお話しを伺いました。
【お仕事の内容について】

施設長としての島崎さんのお仕事の内容について教えて下さい。

  蓬仙園は開所してから33年目で、私が施設長になってから10年になります。定年まであと1年半なので、現在は主に人材育成を意識して行っています。
 指示を出さなくても、自分たちで考えて動けるように、悩みや疑問を持った時にどのように解決していくかを意識して職員に伝えています。そして、各ポジションで独立してやっていけるようにと、ここ何年かはそのような考えで人材育成をしており、かたちになるまでもう少しのところです。

具体的に人材育成としてどのようなことをされていますか。

  例えば、よく施設の職員は車椅子を2台一緒に引いたりすることがあります。果たしてそれは本当に効率的なのかどうかを職員に問いかけます。「私たちは忙しいから」などと言いますが、そうではなく、2台一緒に引く時と1台で引く時はどれくらいの時間がかかるかを意識してもらいます。また2台で引く場合と1台で引く場合のリスクはどうなっているかも考えさせます。そうすると職員がたくさんいる日中は1台ずつの方が早く安全に移動ができるということに気づきます。このように「気づき」に結びつくような課題を与えます。
 突然考えることを与えるので職員は大変だと思います。しかし、時々そうした宿題を出すことで、私からの指示ではなく自分たちの「気づき」で動けるように職員を育てたいと思います。

どのような研修や勉強会をされていますか。

  今年は、『介護力向上』というテーマの勉強会を行っています。これは職員から自主的に出てきた勉強会です。
 内容としては、利用者の方が自分の力でしっかり水分をとり、ご飯を食べ、歩行をし、排泄はトイレで利用者ができるように職員の介護力を向上させる研修です。外部の研修に3年ほど出席していましたが、今年はその研修には出席せずに、これまで研修に出席した職員を中心に、他の職員に教えるということを職員自ら提案し開催しました。
 研修で使う本を全員が購入し、次回の勉強会までこのページを読んでくるように宿題を出したり、質問やテストも行ったりしています。教える側も習う側も強制の参加ではないので、学ぶことも多いと思いますし、勉強会には事務を含めいつも多くの職員が参加して、みんなで一生懸命勉強していますね。
 他には『研究発表会』を行っています。私が栄養士で研修指導者となった時から初めた研修会で24年になります。全職員が対象で「今年の研究発表は何にしようか」と年度当初から全員が考えています。理事長賞や最優秀賞、優秀賞などの他にも、発表した職員にも賞があるようになど楽しみながら継続しています。
 研究の内容もそうですが、発表でパワーポイントを使用するなどみんな工夫しているのがわかります。今年の発表では、利用者の方の写真が出て「この方の笑顔のため!」などと言われたらみんな「ホロッ」となってしまう場面もありました。

【介護力向上研修の掲示と施設内の様子】

新入職員の指導はどのようなものがありますか。

  新入職員には1年間、経験が3年~5年の先輩職員を指導担当にして、夜勤などもその職員から習うようにしています。そうすることで、本人はもちろんのこと指導を担当する先輩の成長も期待できますね。
 『振り返りの会』というのもあり、皆で困っている点、到達していない点などを話したり相談したりします。また、1年間『振り返りノート』というものにわからないことや反省を書きます。そのノートは私のところまで来る前に、所属の先輩や上司に必ずコメントを書くようにさせています。「判子を押すだけなんてとんでもない」と言って実施し1年間継続した指導を心がけています。

介護職員の離職の状況や待遇について教えて下さい。

 蓬仙園では介護職員として20年以上勤めている人が26%で、10年以上では5割ほどいます。開所当時からの職員で私の同期になりますが32年勤務している人が8人います。職員の年齢はバラバラですが平均年齢は39.8歳で長く勤める人が多い傾向ですね。
 待遇についてですが、経験の少ない職員にとっては一般の業種と比べて労働対価とすれば安いと思っています。でも、その時期を頑張って乗り越えて、この仕事を天職だと思って長く勤めれば決して悪くない待遇になっていると思います。

どのようにして長く働き続けられる環境を整えていますか。

  育児休業を取りやすい環境にしています。そのため、ほとんどの職員が1年間の育児休業を取ります。まわりの職員には、育児休業を取得した職員が嫌な思いをして辞めてしまうことのないように、協力するように伝えています。
 また、育児休業から復帰した後も子育ては大変ですので、子どもを預けている保育園から呼び出しが来ても、遠慮せずに帰ってもらうようにしています。それは、その人たちが気兼ねなく子育てできるよう環境を提供することをひとつの目的としていますが、これから結婚する人たちも、出産して子どもが出来た時に、周りの人からどういうふうにしてもらえるか想像することができると思うからです。
 子どもがいることで働きにくくなると思わないように、職場の協力が必要ですので、周りの職員には決して嫌な顏はしないようにと話しています。
 実際に子どもさんが一人いるお母さんが就職して入って来たその月に、子どもの具合が悪く、ほとんど働けなかったことがあります。保育園に入所した年というのは、どうしても子どもも家族も色々な病気をもらうことがあり、休まなくてはいけないことも多くなるんですね。でも、まわりの職員には「絶対に苦情は言わないこと」と言っていましたし、彼女も頑張って働き続けてきました。今も本当に一生懸命働いていて、とてもいい人材に育っています。
 本当は病児保育所などがあったら良いと思います。それで市の人口も増えるかもしれない。そんな事を発言することもありますね。

職員が相談する機会などはあるのでしょうか。

  毎年、来年の就業をどうするか全員に調査をする時に併せて相談を受けています。このまま働くのか、辞める予定があるかなど様々聞きますが、毎年何人か辞めたいと言う職員はいます。きちんとした理由があれば私は止めませんが、曖昧な理由の場合は話合いをします。怒る時もあります。感情的には駄目ですけど、怒らないといけない時もあると思います。
 ここで働き続けて欲しいと思っていますが、その人にとってここが一番いい職場ではないかもしれません。例えば、実家に入って子育てが出来てここよりも働きやすいなどの状況であればそれが本人にとっては良い職場かもしれませんので、なにがなんでも引き止めるとは思っていませんし、色々なところの空気を吸ってみればいいと思います。
 後は「何かあったら必ず相談に来なさい」とは常に話しています。そして、相談に来た職員は泣いたりすることもありますが、話して、泣いて、吐き出した後には翌日からすっきりした様子で働いています。後でフォローしてもらうこともあるので、相談の際は必ずその部署の上司に同席してもらうようにしています。

非正規職員が正職員になる制度はありますか。

  介護職は月給制の準職員で入ってから1年以上の勤務と介護福祉士を持っている条件で、正職員の任用替え試験をしています。でも正職員になるためには一般教養試験と委嘱した職員の評価が必要です。正職員になるための試験に落ちた職員が「辞めます」と言うのではと初めは心配していましたが、試験の結果が悪かったから辞めると言う人は一人もいなかったのでその心配もいらなかったようです。
 試験の結果を伝える時には一人ずつ手渡しをして、評価での足りない点を伝え、なぜそのような評価になったのかを考えるように話します。

資格を取得している職員が多いようですが、資格取得のサポートもされているのでしょうか。

  資格の取得にもみんなが意欲的ですし、頑張って試験を受けることはとても良い事だと思いますので、資格のための講習などは仕事の中で行って良いと言っています。今年はケアマネージャーを受験する者が11名、主任ケアマネージャーが1名、認知症実習者研修が2名、介護福祉士を受けるのも1名、社会福祉士が4名など多くの職員が受験のために準備をしています。
 来年からは介護支援専門員の受講内容や費用が変わることもあり「今年は狙い時だよ」と言ったら11人も受けるようです。「みんな受かったら講習に行くことになるので仕事になりません」と言うので「もし人が足りなくなったら、私がどこでも入るから、受かってから言って」などと笑い話にしています。

職員の交流や施設でのイベントなどはありますか。

  職員のための親睦会はありますが恒例となっているのは夏まつりです。開所当時から続けていますので、今年は33回目になりました。利用者の家族も参加するので、500人位の規模で、花火も打ち上げられてとても賑やかです。今年は景品にオリジナルのワインを作ったりして楽しんでいます。夏まつりなどは止めてしまう施設もあるようですが、これからも続けるつもりです。
 そして、新入職員が最初に覚えるのが『よさこい』の踊り方です。夏まつりで踊るので、早い時期から先輩が教えて全員で練習に入るころには踊れるようになっています。職員全員で踊るので一体感がありますね。そんなところでも親睦が深まっているのかもしれません。

【蓬仙園のオリジナルワイン】
先ほどからお話しを伺っていると、独創的な企画などをされていますが、どのような時にアイデアが浮かぶのでしょうか。

  私はプレーイングマネージャーですし、本当に好きにやっていますから職員が困っていると思います。時々、静かな湖に「ポトン」と石を投げて、少しさざ波が立つくらいにです。
 それに色々思い付いて、お風呂に入っている時に思い付いたりしたことを翌日に「昨日お風呂に入ってて思ったんだけど・・」と言い出そうとすると「お風呂に入らないで下さい」と職員から言われたりすることもあります。ふと思い付くんですね。
 そういうアイデアで変えてきたことが形になってきています。ルートや方法を変えることで書類なども全て早くなり、変わることで全てが動くんです。

【島崎さんご自身について】

栄養士として勤め始めた施設で施設長になった経緯を教えて下さい。

  地元に戻ることになった時にこの施設が出来るのを聞いて栄養士で応募しました。栄養士として働き20年たった頃に一人しかいなかった生活相談員が辞めることになり「管理栄養士として新しく人を雇うから生活相談員になってほしい」と言われ生活相談員なりました。その後、社会福祉士の資格も取り働いていましたが、そんな時に理事長から依頼されて施設長になりました。
 歴代の施設長は外部からの方でしたし、施設の職員からも女性からも施設長になったのは初めです。

これまで働いてきて大変だったこと苦労されたことはどんなことですか。

  どんな仕事でも大変なことや苦労があると思いますが、大抵のことは利用者の方が癒してくれます。本当に利用者の方から癒してもらって仕事をしているような気がします。お年寄りの方とお付き合いしていると、自分はもう少し頑張れる力があるなと思えるんですね。寝たきりで入所した方が歩いているなんて楽しいじゃないでしょうか。自分があまり大変な仕事をしているというイメージではなく働いた方が楽しいし良いと思います。

介護の仕事を通して感じることはどのようなことですか。

  介護は良い仕事だと思いますし、介護職の人は、人が好きな人が多いし、人が好きでないと出来ないと思います。
 どうしても職場が合わないというのは環境を変えた方が良い時もあると思いますし、変えることを否定はしません。でも、どこに行っても人との関係はありますし、どこに行っても大変なことはありますので、だったら根を下ろして、1年目、2年目と働くことで違う景色が見えると思っています。私は、33年ですけどまだ新しい景色が見えますし「あっそうか、知らなかった」と思うこともありますね。
 利用者さんの心理もそのひとつですが、私は栄養士なのでご飯は口から食べるのが一番とずっと思いこんできて、経管栄養や胃ろうになったりすると、栄養士としての力がなくて食べさせられなかったと思っていました。でも、ある時、利用者の方がどうしても食べることが出来なくて経管栄養になった時にその方が言った言葉があります。「これでもう少し食べてって言われなくて済む」と。
 食べる事が好きということは私の尺度ですよね。経管栄養にやむなくなっても、その後体重が増えて元気になるとまたご飯を食べることが出来るようになったりもします。胃ろうを作っても胃ろうは水分、ご飯は口から食べてる人もいますので、その時その時で一番良い選択が出来ればまた元気になります。胃ろうにするしかなくなった方でも、胃ろうで栄養をとることが出来るようになりまた元気になることもあります。食べることが出来るようになった利用者の娘さんから「良かったです。ここに入れてもらって。やっと写真を撮っても良い顔になりました」と言ってもらいました。そんな経験からも介護の仕事をする中で固定概念がなくなっていますね。

島崎さんの今後の目標を教えてください。

  蓬仙園が長く良い状態で続くようにレールを作らなくてはいけないと思っています。
 土砂災害のリスクがあり建て替えの計画もありますが、出来ればこの中川福祉村の中にいたいと考えています。中川福祉村では色々な施設と地元の人とが上手くやっています。運動会も中川地区の運動会に参加し、職員も利用者の方も車椅子のまま出ますし、そういうことが当たり前に出来る場所です。そんな場所で、利用者の方が過ごしやすく職員が働きやすい職場を作ることですね。

【中川福祉村マップ】
最後になりますが、これから介護職を目指そうと考えている方にメッセージをお願いします。

  私は介護の仕事は人として素晴らしい仕事だと思います。本人が好きな仕事というのはなんでもいいし、仕事を全うするということが大切だと思いますが、何も仕事がないから、人材不足だから介護職と考えないで、介護の仕事が良いという選択の仕方を出来るようになったらこの仕事は楽しいのかなと思います。

 
2015年10月1日