H28「労働やまがた2月号」今月のひと

株式会社ジョインセレモニー
パレスグランデール
常務取締役 武田 靖子 さん

山形県では、女性の活躍や男性の家事・育児への参画促進など、男女が共に仕事と子育てを両立できるよう平成27年12月10日に「やまがた企業イクボス同盟」を設立し相互に連携しながら、ワーク・ライフ・バランスの普及拡大を進めていく取組みを始めました。
 この度紹介させていただく、株式会社ジョインセレモニーパレスグランデール(以下、「パレスグランデール」という。)は、「やまがた企業イクボス同盟」に加盟しているだけでなく、全国規模で展開しているNPO法人ファザーリングジャパンの「イクボス中小企業同盟」に山形県の企業で唯一加盟しています(平成28年2月1日現在)。常務取締役としてイクメン・イクボスの普及に取り組まれる武田さんにお話を伺いました。
【お仕事の内容について】

武田さまのお仕事内容について教えてください。

  パレスグランデールの中では主に営業と衣装を管轄しておりますが、営業に直結したマーケティング、企画、商品開発、広報と人材育成なども行っております。

具体的に人材育成としてどのようなことをされていますか。

 研修への参加や社内委員会活動を通して横断的なチームを形成し、全体のサービス向上や館内美観の環境整備、イベントの企画などをしています。イベントは営業のみ、ウエディングは専任のプランナーのみ、と縦割りに関わるのではなく、厨房のスタッフや、総務など様々なスタッフが混じり合って活動しています。
 担当する業務や勤務年数も違うスタッフが集まり、横断的なチームの中でそれぞれが役割を持ちます。また、会議の運営には必ずアイディアを持ち寄り発言します。その活動を行うことで、社員の主体的に働く姿勢を育ててきたつもりです。
 委員会の中では、リーダー、サブリーダー、委員長、副委員長など年齢や男女問わず役割があり、取りまとめや指示を出す立場にもなるので、言われたことをやるだけではなく、自分から企画を仕掛けるなど、課題を発見して実行する必要があります。
 その中からリーダーに相応しいスタッフが徐々に2名、3名と育ってきて、そしてそのようなスタッフが複数名になるとロールモデルになり、管理職候補になっていきます。その中から「私がこの会社の女性社員のロールモデルになります」と明確に宣言したスタッフも出てきています。

ワーク・ライフ・バランス推進への取組みとしてどのようなことをされていますか。

 スタッフが結婚や出産など、様々なライフステージで働き方を変える必要がある段階で「働き方をどうしていくか」を話し合う場を設けました。ポジティブアクションということで、社内でチームを作り話し合いましたが、私たちの業務は土日の勤務や、シフト制で勤務時間が夜遅くなることがあり、子育てをしながら働くには働きにくい環境というのが現状です。そして「土日も子どもを預けられる所がないと働き続けられない」という声もあり、その点が重要と考え、事業所内に託児所を作ったという経緯があります。
 また、「制度はあるけど風土がないと意味がない」とよく言われています。そこで、スタッフの理解を促すために、私なりに女性の活躍推進やワーク・ライフ・バランスがなぜ必要なのかを世の中の背景から話をします。「今はこういう時代だから、自分たちだけではなく、社会の流れ、時代の要請として考えなくてはいけない」と全社員の前で話します。
 全スタッフに話をすることで、「ワーク・ライフ・バランスを充実させることは当たり前」という認識を持ち、スタッフそれぞれが違ったバランスで、負荷やストレスがかかっていることを理解し、それぞれの背景として考慮することが大事なことだと社内全体で共有しています。

 企業文化や理念はすぐに作れるものではなく、日頃から仕事に関する考え方や個々の生活の考え方を育てることで、会社に良い風土ができ、一人の社員のワーク・ライフ・バランスを支える時にスタッフ全員が同じベクトルを向くことができます。

【事業所内保育所 すこやか保育園】
貴社では結婚、出産を機にスタッフが仕事を辞めるというケースは少ないのでしょうか。

 ほとんどなく育児休暇も100%取得しています。当たり前に育児休暇を取って復帰しますので、育児休暇中のスタッフの業務は職務分掌をしっかりした上で、役割を補いながらカバーしています。
 併せて、スタッフ自身の結婚や出産が控えるタイミングで、その部署の人員に少し余裕を持たせるなど、制度として決めるよりはその時のケースに合わせ試行錯誤しながら柔軟に対応してきました。

スタッフの結婚や出産のタイミングを図るには、日頃から密にコミュニケーションをとる必要があると思いますが、どのようにされていますか。

 日頃からの声かけを大事にしています。ただ、プライバシーとプライベートは違いますので、プライバシーには触れずに、プライベートをある程度共有し、ワーク・ライフ・バランスのライフの部分を考慮しながら、ライフイベントが起きる前の段階で対応していくようにしています。
 とても優秀な女性スタッフから「県外での家族の看病のために半年から1年ほど休職をしたい」との話があった時には「とても大事な人材」と事情を含め理解しみんなで応援していました。そのようにプライベートで抱える事情も含めてみんなで支え合っていますね。

【イクメン、イクボスについて】

イクメンへの応援について教えてください。

 以前、『やまがたイクメン応援サイト』への記事の依頼があり、子育て中の若いスタッフに書いてもらったところ、家庭内ではみんながイクメンとして活躍していることを知り本当に驚きました。
 弊社では社内結婚が多く、共働きしているスタッフが多くいます。そのため、夫婦で支え合う必要性が社内で浸透しており、例えば、お母さんが土日に働いている時は休みのお父さんが子どもの面倒をみるといったように、役割分担を明確に決めるのではなく、その時にやれる人が当たり前に子育てなどをやっています。そのような例は多くあり「山形にも実はたくさんのイクメンがいる」ということを皆さんに知ってほしいと思いました。
 「夫婦は一緒に手を取り合い、家族を支え合う」というのはもちろんですが、夫は「自分ごととして家庭を支えていくこと」がこれからの男らしさではと捉えて応援しています。

イクボスについてはどうでしょうか。

  当社は組織図が逆三角形になっています。お客様が一番上の階層で、次の階層が現場、その下の階層がそれを支えている先輩、上司となっています。現場で働くスタッフのフォローは先輩の仕事であり、下から支えています。逆三角形の一番下の階層は社長となっています。あるべき姿は部下を支え応援する上司です。
 また、全体朝礼では新人のスタッフが前で上司が後ろに並びます。後ろから新人を見守れるようになど、少しの工夫でそのような見方や考え方が出来るようにし、イクボスにもつながるように意識しています。

 私は県の教育委員もしていますが、これから必要なのは地域とともにある学校づくりです。人口が減り地域の支えが少なくなる中、一部の熱心な保護者や教育に関心の高い人だけで学校を支えるのではなく、出来るだけ多くの保護者、特にお父さん方の支えも非常に大事という事が見えてきています。そうした一面からも『ワーク・ライフ・ソーシャル』という社会的な自分の立ち位置が求められ、それを企業として支える必要からもイクボスはとても大事な取組みと思っております。

NPO法人ファザーリング・ジャパンの「イクボス中小企業同盟」にも加入されていますが、どのような活動をされているのでしょうか。

 本気でスタッフの幸せを考え業績も上げているエクセレントカンパニーなど、色々な企業の取組み方などの情報交流が盛んで非常に参考になります。
 大企業は最初に制度を作る必要がありますが、中小企業は人に合わせての制度作りが必要で様々な業種に合わせた取組み方でいいと思っています。

「イクボス中小企業同盟」でどのような取組みが紹介されましたか。

 例えば、おやつタイムでコミュニケーションを図ったり、一旦、席を離れてみんなで世間話をする時間を設けそこで家族の話をしたり、朝礼時の1分間スピーチで仕事のことだけではなく自分の今を話すなど、社員自身の考えや状況を共有し合いながら、お互い話やすい風土を作る取組みをしている企業などもあります。
 他には、なるべく効率的な働き方をするために、朝に一日のスケジュールを15分単位に決め、出来るだけその通りに働く取組みです。そして仕事の能率向上や定時に帰る取組みをしている企業などもあり、弊社で取り入れられそうなことや、ユニークな取組みを聞くことで、頭が柔らかくなり楽しく勉強をさせていただいています。

 先日は連合山形でイクボスの話をさせていただいく機会があり、「イクボス中小企業同盟」で学んだ色々な取組みを話すと皆さん驚かれていました。時代が変化してきている中で、昔から長時間働くことで日本の経済を支えてきた方々の考えはもちろん尊重すべきですが、柔軟に、例えば自分の娘さんやお孫さんの時代、少子高齢化社会での働きがいや生きがいはどうあるべきかという見方で考えて欲しいと話をしています。

「やまがた企業イクボス同盟」も設立されましたが山形県での「イクボス」の浸透についてどうお考えでしょうか。

  「やまがた企業イクボス同盟」への参加企業が100社以上と、他県には非常にインパクトがあったようです。
 他の県では「うちはまだ無理」と企業に跳ね返され相手にしてもらえないところもある中で、山形県は先進事例になっていると思います。私も何社か声をかけましたが、最初のころは「うちは全然イクボスが浸透していないです」などの反応もありました。「やまがた企業イクボス同盟」への参加が大事なきっかけであることを共感してもらい、まずは一歩でも二歩でも一緒に取り組んでいきましょうと話してきました。

 最近、子どもを山形で育てたいとUターンで戻って来た方が、事業所内保育所があるという理由により当社で働いています。その方は、ブライダル大手での経験があり、即戦力となっているので非常にありがたいことです。
 このように、働きやすい、子育てがしやすいことも企業選びのポイントになってくる可能性があります。特に今は高校生が学校で「女性活躍推進やワーク・ライフ・バランスなどが当たり前になっている社会になるべき」と学んでいますので、より長く働き続けられる、子育てがしやすいという視点で企業を選ぶ女子学生が多くなっています。その点では世代間のギャップが感じられますので、イクボス同盟の活動を通じて現在の管理職の方には気が付いて欲しいという思いもあります。

【技能五輪全国大会への参加について】

昨年12月に開催された「第53回技能五輪全国大会」の「西洋料理職種」で、堀川茜さんが銀賞を獲得しましたが、技能五輪への出場も支援されているのでしょうか。

 私はスタッフに積極的にどんどん出場してほしいと思っています。
 弊社の総料理長は、厚生労働省の「現代の名工」にも選ばれており、その総料理長の考え方もあると思いますが、業界の中のポジションを意識していると思います。色々な所に出て、世の中を広く見渡し、社内だけで頑張るのではなく、料理業界の中で選手自身が自分のポジションはどういったものかを考えていかなくてはいけないと思います。
 そのような中で茜さんの銀賞獲得はとても喜ばしいことで、結果を出してくれたことは周りに良い波及効果を与えてくれたと思っています。銀賞受賞報告の際に茜さんが「みんなに支えてもらってこの賞があります」と自分だけの力ではなくみんなの支えがあってと言ってくれたことは、みんなで獲得した賞という感じがして嬉しかったですね。

【西洋料理職種で銀賞を獲得した堀川茜さん】

 また、「あなたはプロなの?アマチュアなの?セミプロなの?」という言葉をスタッフによく投げかけます。自信を持って「プロ」と言える肩書きを持ちながらの仕事を目指してもらいたいという思いで言っています。プロフェッショナルとして自分の能力を磨いていくことは、モチベーションが高くないと出来ないことですので、その高いモチベーションを持ちながら、お互い切磋琢磨出来る風土が大事だと思います。

 以前、私が東京のホテルで仕事していた時、素晴らしい上司に恵まれました。その経験から「良い上司に恵まれない部下ほど不幸なものはない」「良い上司、先輩が背中を見せていかなければいけない」と社員に言ってきたことで、少しずつそのように考えるようになった結果、自分の能力を磨く風土が根付いてきたのかもしれません。

スタッフのみなさんが向上心を持って自己研鑽に取組まれているのですね。

  スキルアップのために特別に制度を作ることではなく、自分がこうありたいという目標をスタッフがいかに持てるかです。「何のために働きますか?」とスタッフに良く聞きます。それぞれが自分の言葉で語ることができるようになると「あっ、この子は大丈夫」と思います。「こんなことを表現出来るようになったんだ」「いや、これは敵わない」と思うスタッフもいるくらいです。
 そのひとつに、年に一回、結婚式のプレゼンテーションのコンテストを行っています。自分の仕事を言葉で語り共有する場です。これは、全国で日本一のグランプリを取ったプランナーや、全国レベルで評価が高いスタッフがいることで、大会に出場していない他のスタッフから「自分も負けてないのに、その場にいれたかもしれないのに悔しい」という声により自主的にコンテストが始まりました。切磋琢磨する環境が整えられ良い循環をしていると思います。今では、県外から見学に来る方もいらっしゃいます。

 ブライダルは文化です。儀式、マナー、料理、サービス、ビバレッジ等それぞれの文化を尊重し、食文化を山形の皆さんに知っていただく場や、機会を提供することも仕事のひとつとしてスタッフのみんなは頑張っていると思います。

【武田さんご自身について】

武田さんご自身、ワーク・ライフ・バランスを充実させるためにどのような取組みをしているか教えて下さい。

 公私ともにバタバタと忙しくしていますが、年上の方には「忙しいけど子育ても楽しく充実し、賑やかで今がとても良い時期なんだよ」とよく言われます。大変なこともありますが、仕事でへこんでも子育てやプライベートで支えられています。

 私は昔から三本柱として「仕事」、「家庭」、「自分」ということを意識しています。イクメンの応援は仕事と絡んでいるように見えても実は自分軸で、自分が学んで社会で役に立つことが出来ないかと楽しくやっている部分になります。
 他には、月に一回、お茶の稽古をしていますが、お茶は学べば学ぶほど奥が深い世界です。60歳、70歳になってからも楽しめるので、この先に時間が出てきた時のために少しずつ続けていこうと思っています。
 家庭では、食器が好きなので、好きな器に料理を盛り付けることで食卓が豊かになったような感じを楽しんだり、子どもと一緒にお菓子を作ったりしています。下の子どもは去年からスキー始めましたが、スキーは私の趣味でもあるので、息抜きを含め子どもと一緒に楽しんでいます。
 仕事においては、頑張れば頑張るほどいろんな人に会うことができ、そのつながりで化学反応が起きることがあります。偶然と必然が面白いと感じます。

【インタビュー中の武田さん】
貴社においてさらにワーク・ライフ・バランスを充実させるための取組みや武田さんご自身の今後の目標を教えて下さい。

  今後、ワーク・ライフ・バランスを充実させていく中で難しいこととしてはスタッフの土日出勤への対応です。
 スポーツ少年団が忙しく、仕事との両立が難しいと辞めてしまったスタッフがいましたが、両立が難しいのは保育所が必要な子どもが小さい時期だけではなく、子どもが本気でやりたい事に対して親が支える時期にもまた別の問題があることに気が付きました。
 しかし、この業界では土日を完全に休むことは厳しいことですので、100%柔軟に合わせることは難しいと感じています。そのため、ケースに合わせて臨機応変に対応し、前例を重ねていくことが必要と思っています。
 先日は県若者支援・男女共同参画課のイクボス研修に参加したスタッフが非常に刺激を受けて帰ってきたようで、現場で考えながら自主的に取組みたいと言ってくれています。そのようにいろんな所に飛び火して全員で考えていけるようにしたいですね。
 そして、「子育てするなら山形県」といわれているように子どもを大切にしている地域であることを全国にアピールすると共に、親である社員を抱えている企業も責任があるという認識を持って、一つの企業だけではなく社会づくりとして山形県全体で取組んでいくことで山形県はもっと素晴らしい県になるのではと思っています。

■ 「やまがた企業イクボス同盟」についてのURLはこちら
 http://www.pref.yamagata.jp/ou/kosodatesuishin/010001/iku-boss-doumei/

■ 「やまがたイクメン応援サイト」のURLはこちら
 http://ymsc-ikumen.net/

■ 「やまがた技能五輪・アビリンピック2016」公式HPのURLはこちら
 http://yamagata-wazaou.jp/

 
2016年2月1日