H27「労働やまがた4月号」今月のひと

第52回技能五輪全国大会 金賞
株式会社大沼建築
若林 信さん

若林さんは、平成26年の技能五輪全国大会において県勢12人目の金賞を受賞し、今年8月に開催される技能五輪国際大会に出場します。技能五輪全国大会は満23歳以下の若手技能者が技能レベルの日本一を競う大会で、 ものづくり産業の基盤を担う技能者の育成や技能の重要性のアピールを目的として毎年開催されています(平成28年の開催地は山形県)。この度は、日々のお仕事や全国大会に向けて取り組んだことなどのお話を伺いました。
【お仕事の内容について】

初めに、お仕事について教えて下さい。

  大工として一般的な住宅の新築やリフォーム、改築など主に住宅に関わる大工工事をしています。具体的には柱や梁の他、木で壁や天井を作ったり床を貼ったりしています。その後、他の業者により壁紙や設備等の設置をします。このように住宅に関わる仕事は細かく分かれていますが、そのうちの木工事といわれる大工工事の仕事をしています。

若林さんは働かれてから何年目になりますか。また日々のお仕事として若林さんはどのようなことをされているのでしょうか。

  私は弊社で働き始めてからから3年目になります。今は主に先輩の補助をしています。建物になった時に見えてくる部分と、壁の中で見えてこない部分があります。下地部分と仕上げ部分です。
大工さんというと全部やるというイメージもあると思いますが、建築業には細かい業種がたくさんあります。最近では、大工仕事の中で少しずつ完成した時に見えてくる仕上げ部分をやらせてもらっています。

若林さんがお仕事をするうえで心掛けていることを教えて下さい。

  お客さまのお家ですので、丁寧な仕事でお客さまが望むかたちを表現できるように、要望にそった建物を作るよう心掛けています。
図面で見た場合と実際家になった時の印象というのは少なからず違う部分があります。お客さまに確認していただきながら、お客さまの望むかたちに近づけられるよう丁寧な仕事を目指しています。

どのようなときにお仕事でやりがいを感じますか。

  お客さまから「いがった。」「よぐしてけだね。」と感謝してもらえた時にこの仕事をして良かったと感じます。やりがいというか、お客様に喜んでもらえたことがなによりうれしいです。

大工のお仕事というと力仕事のイメージがあり、大変そうに思われるのですが、どうでしょうか。

  もちろん大変なことはありますが、やめたいと思ったことはないです。小学校3年生くらいから大工になろうと思っていました。大工になるため大工関係の学校に進学し勉強することで、ようやく大工になることができました。
もともと、ものを作ることが好きなので、つらいとか辞めたいとか思ったことはありません。

なぜ株式会社大沼建築を選ばれたのでしょうか。

  高校卒業後、山形市にある山形職業能力開発専門校に進学したのですが、そのときに大沼建築の見学や現場見学に参加したことがきっかけです。また、専門校の先輩が何人もお世話になっているということもあり興味を持っていました。他には技能五輪などの大会にも積極的に取り組んでいるということもありましたので、ぜひ大沼建築で働きたいと思いました。

様々な業種があるものづくりの中でなぜ建築業を選ばれたのでしょうか。

  親戚に和室の襖や扉を作る建具屋さんがいました。作業場から木の切りっぱしなど、使った材料の残りをもらってきて、別に何か作るということではないのですが、積み木にして遊んだりし木と触れ合う機会が多くありました。そのような経験もあり木を使って何かしたい、木を使って家を建てたいと思うようになりました。そのような職業のことを「大工」と親戚の方に教えてもらって「じゃ、俺、大工になる。」とそこで決めました。それが小学校3年生のころです。

小さい時からものをつくることが好きだったのでしょうか。

  昔から折り紙やあやとりをしている子どもでした。周りの友達はゲームなどに夢中になっていましたが私はゲームを余りしませんでした。

話は変わりますが、若林さんは休日どのように過ごされていますか。

  仕事の内容によっては重いものを持って運んだり、ずっとトンカチを振って長い釘を打ったりなど力仕事が多くあります。また、高い所に登り、家を建てる最初の軸や柱を建てていく作業など危険と隣り合わせで神経を使う仕事もあります。そのようなこともあり、家でゆっくりしたいというのがあって、外出はあまりせず、趣味のペーパークラフトなどを作っています。ペーパークラフトでは2年くらいかけてバイクを作りました。

【技能五輪について】

技能五輪全国大会には今回2回目の出場とのことですが、出場しようと考えたきっかけは何でしょうか。

  技能五輪の全国大会に出場するためには県の予選を通過しなければならないのですが、山形職業能力開発専門校に在学しているときに授業の一環としてその県予選を受けた際、予選を通ったということもあり、もともと興味を持っていました。また、弊社の先輩も多く出場していたこともあり、技能五輪全国大会出場の話が出たときに「是非出たいです。」と言ったところ快く出してもらったのが1回目です。2回目の今回も出場の話があったので出場を自ら志願しました。

技能五輪全国大会に向けて課題の練習はどのようにしていましたか。

  大会の二カ月半ほど前から会社から許可をもらい、山形職業能力開発専門校の場所を借りて、県内の同じ建築大工※に出る選手とともに強化練習をしました。
大会の競技時間が2日で11時間45分という制限時間がありますので、その時間に合わせ、1日目7時間、2日目4時間45分という大会と同じ時間帯で作品を実際に作りました。2日に1個のペースで作り、月曜から土曜日まで週で3個作ります。結果として課題の練習で作成したものが全部で23個になりました。強化練習の期間はそのようにして反復練習をしていました。
その中で、作っていると具合が悪いところが出てくるので調整しながら、どの位削ると良いか、線一本消すか残すかなどいろいろ試しました。材料に鉛筆で線を引きますが、その外側を切るか内側を切るか、またはその線の半分を切るか、線の真ん中を切るかなどの具合を23個作成する中でつめていきます。隙間とかをいかに少なくするかという、正確さを競う大会ですので、ここはこうした方がいい、どのようにしたら組立した時につきやすいかなど突きつめていき、頭に入れていきます。そのような練習をこもりっきりでやっていました。

※技能五輪全国大会では41の職種があり、それぞれの職種に分かれて金賞を目指し競い合います。

【技能五輪全国大会へ向けて練習の様子】
ライバルである他の参加者とも一緒に練習することに関してやりにくさなどなかったのでしょうか。

  作る物は同じですが、人により工程や手順もそれぞれあり「この方がいいよ。」「俺はこうすると上手くいった。」など人がいることでアドバイスなど出来ることもありますし、ひとりだと自分の中でもんもんとするので、やりにくさは感じませんでした。また、今年は5人の参加者がいたのですが、大会と同様のスペースを作り一緒の部屋で練習することは、一人で練習するより本番の環境に近い状況で練習できたのではないかと思います。
さらに、11時間45分の中で完成出来るように、時間配分をする必要があるのですが、人によっては早く出来る人もいれば、遅いけどしっかり作る人がいます。それにライバルがいれば「こいつ早く終わった。俺もやんねど。」と思うので、そういう意味では同じ目標に向かう様々な人が集まって練習できた環境は良かったのかなと思います。

練習はつらくなかったのでしょうか。

  やっぱり同じ物を作っていると飽きてくるのですが、私は楽しくて仕方がなかったです。

練習期間の1日の日程を教えて下さい。

  本番と同じように、2日で1個を作るので、月曜日と火曜日で一組、水曜日と木曜日で一組、金曜日と土曜日で一組のペースで作成します。大会当日の競技時間に合わせて、練習の1日目は9時から12時までの3時間課題に取り組み、1時間のお昼休憩をいれて1時から3時までの2時間行います。その後、15分の休憩をはさんで5時15分までさらに2時間の作業をします。2日目が9時から12時までの3時間と、1時から2時45分までで合わせて4時間45分の作業を行ないます。課題作業時間を競技時間と同じ1日目の7時間と2日目の4時間45分とし、その後は夜の11時ころまで残って課題研究をしていました。

作業の手順や競技で行うことについて教えてください。

  作業手順としてはまず図面、展開図と言われるもので、材料1本1本をどう加工するか、どう材料を作るかを描きます。次に、材料をかんなで削り、墨付けをし、加工仕上げ、組立という手順で作業をします。
図面を描かないと作れない課題となっており、加工も墨付けも、結局、図面がしっかり描けているかということにかかっています。
組立に入ったらもう刃物は使用できません。例えば段差があっても削ったり、切ったりと調整することが出来ません。加工の時も2つの材料以上を組合わせてはいけないので、組合わせながら調整していくということも出来ません。ですから、触った感触をもとにもう少し削った方がいいかなど考えながら行います。

※大会での作業手順

「原寸図(提出検査)→ 部材の木削り → 墨付け(提出検査) → 加工仕上げ → 組立」の順で作業行います。組立に入る前には、指定工具以外を格納するため削るなどの加工が出来ません。 

【競技課題】
【競技当日課題】
大会当日発表の課題があるということですがその課題の練習はどのようにしていましたか。

  課題を自ら想定しながら作成しました。
 当日発表の課題は材料の寸法だけ出ていますが、どのような内容、どの場所に一本いれることになるかわからないので、「もしかしてこういうところにくるのではないか。」などと想定しながらの練習でした。
 したがって、「今日はここに入れてみよう。」などと様々な現寸展開図を書いて作成する練習をしました。
当日はどんな課題が出るかドキドキでしたね。練習していない課題が出たら何も出来ず採点もしてもらえなくなります。

大会ではどのくらいの時間で完成させることができましたか。

  制限時間11時間45分のうち完成したのは11時間40分くらいでした。でも、それくらいで終わるような設定をしていましたし、練習ではいつも1分前などギリギリでしたので、むしろ余裕があるなと思いました。

【競技中の若林さん】
大会会場では周りが見えている状況ですが緊張はしませんでしたか。

  作っている時に周りは見えません。当日の割当てられた場所は、体育館の会場の入り口近くで、観覧席からも見えていましたが、集中しているので足元しか見ていませんでした。なので、周りはあまり気になりませんでした。

結果発表の時はどんなお気持ちでしたか。

  結果よりもまず、時間内に出来たということにホッとしていました。

入賞の手ごたえはありましたか。

  競技終了後、完成した作品全部が並ぶのですが、私の作品はある程度まとまっている方だなと感じました。しかし、練習よりうまく出来ず隙間が出来てしまいましたので、受賞するとしても敢闘賞くらいかなと思っていました。その時は賞よりも、とりあえず完成して提出することができたというホッとした思いの方がありました。
そして表彰のとき、敢闘賞、銅賞、銀賞、最後に金賞という順で発表されるのですが、敢闘賞で私の名前が呼ばれず、敢闘賞は山形県の他の選手が受賞しました。その後の賞でも私の名前は発表されず、ほぼ諦めていた時に、「金賞、山形…。」とアナウンスがあり「まさか!」と思いました。

表彰式の演出も盛大だったようですね。

  金賞の時だけ、ライトや音楽がダーンという感じでした。発表後、自分の名前が呼ばれてもすぐにわからなくて、周りにいた人に「行け、行け。」と言われ連れられるまま壇上に行きました。

【表彰式の様子と金賞のメダル】

◆外周の黒いリングはタイヤがモチーフで中心部はチタン製となっています。その下には七宝焼きで、愛知県の花「カキツバタ」をあしらってあり、りボンはナイロン生地に有松絞りと同じ工程を施したものです。

金賞のメダルも素敵ですね。

  毎年、その開催地の伝統工芸などを用いているようです。開催地が愛知県でしたので自動車産業が活発ということもあり、メダルはタイヤをモチーフにされています。それに県の花があしらわれ、メダルの首掛けは伝統工芸の絞りの織物です。

国際大会※がありますが大会にむけて練習も初めていますか。

  国際大会はもっと厳しく、当日公表の課題が全国大会ではひとつでしたが、多くなるような話ですので、図面をしっかり描ける技術が必要になってきます。国際大会に向けて練習を始めていますが、他の選手は1月くらいから練習しているらしく遅いくらいかもしれません。

※技能五輪国際大会は隔年で開催されており、約60の国や地域が参加しています。今年は開催年となっておりブラジルのサンパウロで開催します。若林さんは、日本代表として参加されます。

国際大会は8月に行なわれるそうですが。

  ちょうどお盆のころ10日間ほど行ってきます。国際大会では競技時間が更に倍の24時間で4日間になります。前後にイベントなどがあり10日間ほどのようです。国際大会なので、開会式などでは交流会があるようです。

【インタビュー中の若林さん】
これから技能五輪に挑む方や挑戦しようか考えている方へメッセージをお願いします。

  自分の納得のいく作品を作るためにやってきた部分があるので、そういったところを目指せれば結果もついてくると思っています。あとはやると決めたらとことん突き詰めるしかありません。とはいえ、反復練習を続けることはやはり飽きてしまいます。ずっと同じものを作るのは技能五輪のためと思いながらもつらい部分があります。しかし、それに負けてだらけてしまうと技術が向上しないので期間中は頑張りました。
技能五輪での経験が必ずしも現場で全部使えるというわけではないのですが、基本的な道具の使い方を学ぶことができ、また「やりきった。」という自信がつくので、そういう意味では是非、挑戦してもらいたいと思います。

最後に、技能五輪国際大会に向けて、また大工としての今後の目標を教えて下さい。

  国際大会は自分の納得のいく作品を提出したいと思います。そのために練習も頑張りたいと思います。全国大会の時もあまり結果は気にしていなかったので、自分の良い作品を作れるように求めていけば、結果はそれについてくると考えています。「世界一が目標です。」とか言ったら格好いいのでしょうけど、あまり結果にこだわり過ぎると続かない部分もあるので、楽しんで自分の納得のいく作品を作りたいと思います。
大工としては、ひとりで家を建てられる一人前の大工になりたいです。まだまだ未熟ではありますが、ひとつひとつ仕事を覚えていきたいと思っています。

◆刃物なので切れ味が大切です。仕上がりをよくするため全国大会ではかんなを6つほど使用したそうです。
「まだ研ぎはへたですが、道具をうまく使うことで効率もよくなるので道具は大事です。」ともお話しされていました。

 
2015年4月1日