H27「労働やまがた6月号」今月のひと

【福祉の仕事シリーズ】
山形県福祉人材センター
保育士再就職支援コーディネーター
皆本 純子さん

女性の社会進出が進み保育ニーズが高まっている現在、全国的に保育士不足が問題とされています。
そのような中、県では山形県福祉人材センターへ委託し「保育士再就職支援コーディネーター」を設置し、求職している潜在保育士(現在は保育職から離れている保育士資格者)の方と人材を求めている保育園のマッチングのサポートをしています。
 この度は、保育の仕事に再就職するか悩まれている方を後押ししている皆本純子さんにお話を伺いました。
【お仕事の内容について】

山形県福祉人材センターの事業内容を教えてください。

  社会福祉法に基づき山形県知事の指定を受けた、主に福祉分野の無料職業紹介所になっています。求人の情報提供や求職者と事業所の橋渡しや福祉の資格取得の相談も行っています。例えば自分のお子さんが資格の取得を考えているので話を聞きたいなどの相談も行っています。
他には人材確保と育成で、福祉施設職員の研修やキャリアアップ支援を行っています。職員数の関係で参加出来ない事業所へは当センターから出向いて専門性の向上、育成に取組んでいます。

皆本さんのお仕事の内容について教えてください。

  山形県福祉人材センターで保育士再就職支援コーディネーターとして潜在保育士の就職支援を行っています。主な仕事は求人求職の相談で、山形県福祉人材センターの窓口や電話、メールの他に毎月一回、各ハローワークでの外部相談会を開催しています。また、マザーズジョブサポート山形での福祉保育の相談会も行っております。
その他に、保育事業所への訪問も行っており、保育現場のニーズの把握や、私どもに預けてくださっている求人票の確認、ここ山形県福祉人材センターや保育士再就職支援事業の周知も併せて行っています。また、保育士再就職支援研修会、保育の職場体験の企画と実施も行っています。

【人材センターの窓口】
潜在保育士の把握はどのようにされているのでしょうか。

  この保育士再就職支援事業が始まったころは、誰にどのような方法で研修会などの周知を行えばいいのかが分からず、ハローワークを通じて周知のお願いをしました。昨年度からは県で行った県内の保育士登録されている方への意向調査の結果を活用し、就業の希望や情報を求めている方など約300人に情報提供を行っています。

潜在保育士の方からはどのような相談をされますか。

  相談内容はさまざまですが、保育の仕事のブランクが長い、資格があっても経験がない、雇用期間満了で仕事がなくなってしまうなどの相談です。他には、保育士の資格をお持ちでない方の相談もあります。これから保育士の資格を取りたい、子どもが好きなので保育の仕事に就きたいなどの相談も多くあります。
潜在保育士の中には保育士が不足していることに対してまだピンときていない方も多いです。山形県の場合保育士の不足はここ4、5年のことで、以前は一名の求人に対して10名位の応募があることが普通で、新卒採用の時でも採用されないこともあったようです。ですから現在、保育士が不足していることからお話しをすることもあります。
また、潜在保育士の方が応募に不安がある場合は、正式な応募の前に保育園見学を保育園にお願いするケースもあります。保育園の雰囲気に触れることで潜在保育士の方の不安が解消され、保育園側でもある程度潜在保育士の方の普段の様子が分かります。そのため、面接などで緊張したやりとりをするよりも、見学に行って話をすることでお互いに「ここだったら」「この人だったら」と思ってくださることも多いです。もちろん今は個人情報が大切な時代ですので、保育園によっては子どもの情報などの関係で難しいこともありますが、求人票をお預かりした時点で見学が可能か確認をしています。

保育士が不足している原因にはどのようなことがありますか。

  相談に来られた求職者や保育士再就職支援研修会の参加者、あるいは保育園の方からお聞きすると、共通していることがあります。それは保育士に求められる責任や、新制度に変わり求められることがどんどん大きくなるにも関わらず、現在も賃金が他の職種に比べて低く、また社会の評価も低いことが原因に挙げられます。
福祉の仕事全体に言えることですが、福祉関係の仕事は、女性が家でしていた介護や子育てと共通しているので、誰でも出来るという認識が続いてきたこともあると思います。「福祉というのは気持ち、心が大事なんだから、お金ってそんなに求めるものじゃないでしょう。」という認識も社会の根底にあるのか待遇の改善が難しいようです。
そのほかにも仕事量が多く休みが取りづらいので家庭との両立が難しいとも言われます。さらに保育園側でも悩ましい思いをされているようですが、児童数によって保育士の資格を持っている職員人数が定まっているため、保育士の資格をもっていない方などの雇用が不安定になっており、そのような方たちが保育士以外の仕事に就いていることも挙げられます。

そうなると正職員での就職は難しくなるのでしょうか。

  保育園側でも、正職員として働いて欲しい思いがすごくあるのですが、児童数の数によってそれが難しくなっています。余裕を持って人材を確保しておくことで急な休みにも対応出来るし、一人ひとりの仕事量を減らすことが出来ることはわかっています。しかし、経営が厳しくぎりぎりの人員で運営しているということもあり、保育士の方の休みが取りづらく、仕事が大変になるといった悪循環に陥ってしまっていると感じることがあります。
しかし、正職員を希望していて正職員の求人がない場合でも、保育園に確認をして正職員登用制度があればまずは臨時職員からの採用で正職員を目指すケースもありますので私どもへご相談ください。

【相談中の皆本さん】
山形県内で地域による保育士不足の問題の違いや特徴はありますか。

  そんなに大きな違いや特徴はありませんが、公立の保育所や認定こども園が多い地域では、正職員ではなく臨時職員での雇用形態が多くなっていることが一つあります。初めは郡部の方で保育士が不足していないような話もありましたが、いざ話を聞くと県内各地で不足しているというのが見えてきたところです。

求人側の保育園と求職者である潜在保育士との情報のやりとりはどのように行っていますか。

  山形県福祉人材センターの特徴として、月に一度、ホームページに求職者の情報一覧を更新します。個人情報以外の、資格や希望の職種、勤務地の情報など掲載を希望された求職者の一覧です。それを求人側の事業所が確認し希望があれば紹介をしますが、求人票の内容と求職者の希望が全て一致することは少ないので詳細な聞取りも行います。求職者は、例えば、今は子育て中なので短時間のパートだけれども3年後であれば子どもの手が離れるのでその時にはフルタイムの正職員を希望している一方、事業所は、今は早番が出来るフルタイムで働ける人がいないと困るなどの理由で採用に至らないなどマッチングの難しさもありますが、事業所見学などを提案しながら諦めずに行っています。

潜在保育士の方が再就職された後のフォローアップなどはされていますか。

  就職したから私どもとの関係が終わりというわけではなく職場に馴染むまで、愚痴でも何でもいいので電話を下さいと伝えることもあります。
実際に再就職された方の生の声は大事だと考えています。現場を知るひとつにもなりこれからの研修や当センターの取組みの参考にもなりますので電話をいただくのは嬉しいことです。何かすぐに出来る訳ではないかもしれませんが、お話しだけでも聞かせていたければ嬉しいです。

保育士再就職支援事業での実績を教えていただいてもよろしいでしょうか。

  保育士再就職支援事業は平成25年の9月からの事業です。これまで当センターを通じて就職したのは31名になります。その他にも、ハローワークを通じて就職した方やご自分で直接、保育園に行き就職した方といます。どのような形であれ、相談に来て下さった方や研修会に参加された方が保育の現場に戻ったことは大変嬉しく思います。
IターンUターンで来て下さる保育士の方も中にはいらっしゃるのでそこは嬉しいです。家族の転勤に伴い山形に転勤になったので保育士の経験を活かして保育職に就く方もいます。経験があれば事情を考慮しながら受け入れてくださる保育園も多くあります。
現場の園長先生はもちろんですが、保育士の先生方は皆さんイキイキしています。実際の年齢よりもとても若く見えるのは、子どもと一緒に過ごしているからでしょうか凄く笑顔が素敵な方ばかりです。しかし一方で現場の保育士さんは凄く大変な面もあると思います。
今は、制度の変更などで求められることが多く、お父さん・お母さんの子育ての支援や発達障害の早期発見とケアなども求められています。保育園・幼稚園、小学校で連携強化や勉強することが多くなっているでしょうし、親世代への支援を求められてしまうというところもありますので本当に頭が下がるということばかりです。
大変さばかりがクローズアップされていることもありますが、やりがいを持って働かれている方が圧倒的に多いです。でもその情熱だけに社会がおんぶに抱っこだと、結局、保育士さんの数も段々と減ってしまうのかなと思います。

皆本さんは保育士再就職支援コーディネーターとしてどのようなことを心掛けていますか。

  保育士再就職支援コーディネーターの大きな目標は、潜在保育士が保育の仕事に就くことです。そのための求人求職のマッチングには、双方の細かい聞き取りが必要になってきます。そのためにはまず潜在保育士の方との信頼関係を築かなくてはいけないと思っています。潜在保育士の方それぞれで就職や再就職への思いや生活環境も違うので、プライベートなところまで踏み込んで、家庭の事情などを聞くことになります。信頼関係がないとそこまではお話をしていただけないと思いますので、潜在保育士の方に安心感を持っていただき一緒にいろいろな話をした上で、ご自身の道を決めるためのサポートをしたいと思っています。
また、保育園によって求める人材や就業時間に違いがありますので、諦めずに双方の希望を丁寧に聞くことも心掛けています。

【保育士再就職支援研修会について】

開催回数や内容を教えてください。

  平成25年度から毎年4回実施し今年度も4回を予定しています。
内容の一つとして山形県保育協議会の協力のもと、地元の園長先生や保育士の先生方に事例発表を行っていただいています。平成26年度は、地元の保育士養成校の先生方から『ここ10年の保育現場の移り変わり』というテーマで講演をしていただきました。
また新しく研修会のオプションとして保育現場での職場体験も実施しています。9時から15時頃まで1日保育所の中で実際の仕事を体験するものです。この職場体験の受入れ先を募集したところ、約80の保育園が手を挙げて下さったことは本当にありがたいことでした。保育士再就職支援事業は関係機関の皆さまの協力がないと成り立たない事業とつくづく感じています。

【皆本さんご自身について】

なぜ保育士再就職支援コーディネーターになろうと思われましたか。

  学生のころから福祉の仕事に興味がありボランティアに参加していましたが、福祉関係以外のところに就職しそこで長く働いていました。その後ホームヘルパー2級の資格を取りホームヘルパーとして一時期働くなど様々な仕事をしてきましたが、やはり福祉関係に携わる仕事をしたいという思いがありました。
どんな仕事でも誰かの役に立っていると思いますが、私の場合は福祉に興味があったので福祉に関する仕事がより誰かの役に立てる感覚がありました。
今は福祉人材に関われる仕事でとてもやりがいを感じる一方、難しさと自分の知識不足を実感するときがあります。もっと知識を深めたい思いもあり、社会福祉主事任用資格を働きながら取得しました。色んな知識を得ることで相談に来られた方へ何か提供出来ればと思っています。

ホームヘルパーを経験したことは相談にも活かされていますか。

  保育職もそうですが、介護職など福祉関係全般ですが、人が好きというのが根底にあると思いますので、そんな思いや自分のちょっとした経験をお話しするときに活かされているなと思います。

お仕事をしていてどんな時にやりがいを感じますか。

  成果などが目に見えたり、実績がすぐに上がったりするものではないので難しく力不足も感じています。しかし、潜在保育士の方が就職された後に園長先生から「元気に働いてくれてますよ。」「良い方を紹介してくれましたね。」などの声をいただいた時や、研修会の時に「再就職に向けて勇気が出ました。」などの感想をいただくと「良かったな、私ももっと頑張ろう。」と思います。

【インタビュー中の皆本さん】
潜在保育士の方に伝えたいことはありますか。

  保育の仕事に就きたい「でも…」と相談してくださる方がいます。この「でも・・・」というところが再就職へのストップをかけている原因でしょうか、この「でも」の部分をできるだけ話して欲しいです。
保育士に限らず専門職の方は一度現場を離れてしまうとなかなか復帰しづらいと思います。それは専門職の責任の大きさや難しさを知っているほど「自分なんか駄目なのでは」と不安が大きくなるからだと思います。また子育てやご家族の介護、看病など家庭での仕事が長かった方、今は男性の方もですが、仕事と家庭の両立が課題であって、それに対する心配がとても大きく「家族に迷惑をかけたらどうしよう」という思いなども話して欲しいと思います。
保育園によってはブランクが長い方や未経験の方でも、色々と配慮をしてくださるところもあります。即戦力だけではなく、保育の現場に戻ってきてくれることに重きを置いている保育園もあります。子どもが好きで保育職を目指した時の気持ちを思い出していただき、まずは相談に来ることで第一歩を踏み出して欲しいです。

皆本さんの今後の目標を教えてください。

  まずは引き続き潜在保育士、保育資格取得を目指す方、保育園の方に保育士再就職支援事業、また保育士再就職支援コーディネーターの存在を知っていただくこと、そしてより多くの方に山形県福祉人材センターを利用していただくことを目標にしています。その上で、コーディネーターとして各ハローワークにもご協力をいただいて、保育の仕事に就く方が増えることを目標に頑張りたいと思っています。

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2015年6月1日